私たち人類は、太古の昔から、娯楽への欲求や社会とのつながりへの欲求、芸術的に自己表現したいという欲求など、色々な欲求を持っていました。これらの欲求が音楽によって満たされると、リズミカルな動きへの渇望に変わります。人類は本能的に「踊りたい」という強い欲求を持っているのです。ハワイでは、この欲求は、世界で最も代表的な踊り「フラ」へと発展しました。日本では「フラダンス」と呼ばれているものです。

 

フラは古代の芸術形式である

フラのルーツが伝説的であることは、フラがいかにユニークで古い芸術であるかということを考慮すれば、驚くにはあたらないでしょう。実際、ハワイには、フラの起源を示すさまざまな物語が言い伝えられています。ある伝説では、モロカイ島の聖地で女神ラカが考案したとされています。また別の伝説では、女神ヒイアカが姉である火山の女神ペレを喜ばせるために考案したダンスだとされています。さらに、女神ペレが姉である海の女神ナマカオカハアイに勝利した記念に作ったダンスだとする伝説もあります。他方、フラマスターであるレアトS・サヴィーニさんは、フラの原型はハワイの創世記である「クムリポ」にあるのではないかと考えているそうです。フラでは、物語の中で宇宙を創り出す多くの神々は、腕や足の動きだけでなく、オリ(詠唱)も披露します。チャントとダンスはフラの基本的な構成要素であるので、神々のパフォーマンスこそが最初のフラの踊りといえるでしょう。

 

古典スタイルのフラ

フラは2つのカテゴリに分けられます。古典フラである「カヒコ」と、現代フラである「アウアナ」です。古代ハワイアンが「カヒコ」と呼ばれる伝統的な踊りの形式を考案しました。カヒコは、宗教上の重要な儀式や、年老いた酋長を称えるお祭り、家族で楽しむ軽い会食まで、さまざまな目的のために行われました。カヒコの踊り手の衣装は、通常の衣服で作られていました。男性は、カパという木の皮の布でできたマロ(腰布)を着用しました。女性は、同じくカパで作られたスカートを履き、上半身裸になるのが一般的でした。ヘッドピース、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、そしてこれらのアイテムのフラワーレイバージョンは、衣装をさらに引き立てるために男女ともが着用しました。ヒョウタンドラム、シャークスキンドラム、ココナッツティンパニ、ストーンラットル、ヒョウタンカスタネット、クレフトバンブースティック、テンポスティックなどの打楽器が演奏されるとともに、物語性のあるオリがパフォーマンスとなりました。フラは首長への敬意や宗教的な儀式のために行われたのです。

モダンスタイルのフラ

「アウアナ」としても知られる現代フラは、1800年代に西洋の文化とハワイの伝統文化が融合したことで生まれた芸術です。宣教師がハワイの島々に信仰を広めていくにつれ、キリスト教徒のモラルに大きく影響され、この新しい種類のダンスが生み出されていきました。衣装は、男性はスラックス、女性はドレスと、従来の衣装から露出を抑えたデザインに一新されました。またこれと同じ頃に、フラを象徴とする草スカートが使用されるようになります。もうひとつ、西洋の影響を大きく受けたのは、音楽面です。現代フラ「アウアナ」は、オリではなく、メレ(歌詞)を伴奏にします。このメレは、他のポピュラーソングと同じような構成をしていて、リードボーカルにウクレレ、ギター、ベースなどの弦楽器が添えられることが多いです。